教員コラム 経済学専攻
定年 (経済学 焼田 党 教授)
2022年11月16日
もうじき定年退職を迎えます。この職業について40年以上たちました。修士論文で「生存保険」が個人の生涯消費計画にもたらす影響についての研究に関心を持って以来、1965年にAERに発表されたDiamond 教授のOverlapping generations (OLG) modelを用いて経済問題を議論してきました。修士課程で出会ったのは10年ほど経っていましたが、その時期、特に日本ではそれほど多くの研究者がOLG modelを用いていたわけではなかったように思っています。1974年にはBarro教授の公債の中立命題にかかわる論文が JPEに掲載されています。これは単純なOLG modelに利他的遺産動機を導入したものですが、それまでのマクロ経済政策に関する議論に大きな影響を与えたと思います。このような時期に経済学の研究を始められたのは幸運だったと思っています。名大近くのうどん屋で、向こう向きに有名教授がおられるにもかかわらず、先輩にこのBarro論文を説明したことが鮮明に蘇ります。背筋に冷や汗をかいた院生時代の記憶です。
その後もほとんどの研究でこのOLG model(分析によっては変種)を用いて論文を書いてきました。研究の対象は公共投資、最適税、財政維持可能性、そして出生率と女性労働と介護等の問題と変化してきました。まだ定性的な分析がかなり関心をもって受け入れてもらえた期間でもあり、この点でも幸運でした。
研究者(当時は大学教員とほぼ同意)になるきっかけを頂いたのは、大変熱心に経済学の話をしてくださった大学時代の先生でした。自分のゼミとは別に、図々しくもゼミに出させてもらって、ゼミ後に四谷新道通の喫茶店で、経済学の話や学会の話をマンツーマンで聞かせてもらいました。宇沢弘文先生や先日亡くなった小宮隆太郎先生の経済学についてのお話は今でもぼんやりと残っています。その後大学院でも、夏休みに空き教室の黒板の数式を何日も一緒に眺めて論文の書き方を教えて頂いた先生に巡り合いました。これらの先生方のおかげで今の自分があることに幸運を感じ、感謝しています。もちろんこれまで様々教えて頂いた研究者の皆さんや、研究機会を与えて頂いた大学や同僚にも感謝しています。
速い速度でしかも大きく動いている今の経済社会、(いつもそうなのかもしれませんが)経験したことのない経済・社会問題があふれ出ています。年齢と反比例する自分の研究能力に対するあきらめと同時に、若い世代に対する希望も大きく感じています。このコラムでも何人かの先生方が大学院での研究のお誘いを書かれていますが、「それほど悪くない」と小生も思います。幸いにして大学教員になれれば、かなり自由に考えられます。現在では、大学教員以外にも生きる道は見つけられように思います。さらに言えば、逆に「プロフェッショナル」でなければ生きられなくなるかもしれません。
素直で明るい南山大学の学生の皆さんの未来が幸せでありますように。