教員コラム 経済学専攻
『南山経済研究』の機関リポジトリ化の効用(経済学 岸野 悦朗 教授)
2022年01月11日
南山経済学会の紀要誌として長年出版されてきた『南山経済研究』が2020年度に南山大学機関リポジトリに登録申請することになり、これまで同紙において書籍でのみしか情報提供できなかった各教員等の研究成果が、ネットを通じて日本をはじめ全世界に発信されることが可能になった。こうした環境の下で、私も昨年末に当大学に採用されて以降『南山経済研究』に6年間投稿してきた11本の論説を順次機関リポジトリに申請登録した。
リポジトリ化の一番の効用は、投稿された論文等について多数の者が場所を問わずいつでも閲覧することが可能なことである。現にリポジトリ化された私の論説の利用状況(ダウンロード件数)をみると、その内容によって異なるが、少ないもので1月当たり数件、多いもので100件を超えるものがあり、通年で見ればかなりの方が利用している状況が窺われる。この件数は書籍の場合に比べて比較にならないくらい多い。
このことは、最近の情報収集におけるデジタル化の流れが要因と考えられる。事実、私の指導院生の状況を見ると、修士論文作成のための参考文献として、一次的にネットからの検索を通じて文献収集する傾向がある。ネットからの情報はその信憑性から問題があり、文献は手間をかけても書籍から収集するものであるとして、日々図書館に通いつつ文献収集を行っている方々からすれば、こうした傾向は好ましくないと一見思われる。実のところ私もそのように考えていたが、大学が運用するリポジトリであれば、一般のデジタル化された情報と異なりその内容は紀要等の学術雑誌である書籍と同様であり、リポジトリの運用に際しても一定のルールが担保されており、活用面での問題が生じることは少ない。
現在、大学の各研究者の研究成果については各大学の研究機関が発行する紀要等により発表されているが、未だリポジトリ化されず書籍によるものがかなり存在し、また、当大学の図書館に配置されているものもこうした書籍の一部にすぎない。したがって、私も紀要等の資料を入手するのに苦労もし、一方、図書館としても資料のやり取りに事務量とコストをかけている。さらに、現に図書館に所蔵するものにおいても今後書籍として保管し続けることは困難となるのが現状であり、こうしたことを考慮するとリポジトリ化の推進は必要不可欠と思われる。何よりもこうした書籍の機関リポジトリがお互いの研究機関において推進されれば、情報の共有化が進展し、研究成果のギブアンドテイクにより、実りある研究成果が実現されるのではと感じる次第である。