教員コラム 経済学専攻
コロナ禍における国際貿易のゆくえ(経済学 太田代 幸雄 教授)
2022年03月01日
2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症により,2020年以降,世界の様相は一変してしまったと言っても良いであろう。人々の行動は大きく制限され,大学における講義もオンライン形式で実施される日々が続いた。また,定期試験までオンラインで実施されていた時期も存在した(現在では対処方法も詳細に検討されることで,定期試験は対面で行えるようになってきた)。
もちろん,このような状況は大学のような教育機関に限られたものではなく,社会全体で見られた(あるいは,現在でも見られる)現象である。人々の仕事もオンラインで行われているような例について,皆さんも一度はニュース等で目にしたことがあるであろう。また,ここ2年間は,就職活動もオンラインで行われる場合が多く,これに伴う様々な問題も指摘されている。さらに,この状況下における飲食店営業等の問題に関連して,宅配業者のようなサービスが注目されていることも皆さんが既に十分ご存知のことであろう。
以上の例のように,コロナ禍という状況は,日本経済内部に大きな影響をもたらしているが,このことは国際経済にとっても同様,いやより大きいかもしれない負の効果を与えている。皆さんは,「グローバル・バリュー・チェーン(以下GVC)」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 近年,世界における大企業の多くは,その企業本社が存在する国のなかでのみ生産活動を行っている訳ではない。例えば,アップル社のiPhoneをはじめとしたスマートフォンの生産は幾つもの工程に分けられている(「フラグメンテーション」と呼ばれる)が,これらの工程は全て企業本社が立地している国に存在している訳ではなく,各工程の一部を海外子会社で行う,また外国の他企業に委託して行うケースも沢山存在している。このように,1種類の商品を生産するために企業活動が国境を越えて行われているようなプロセスがGVCであり,このプロセスによって各企業はより効率的に生産できている訳である。しかしながら,コロナウイルスの発生によって,このGVCの多くは寸断されてしまった。例えば,世界中で半導体が品不足となり,この部品を必要とする製品の生産がストップしてしまった。さらに,もし仮に各部品の調達の目途が立つとしても,世界中で輸送コンテナが不足し,世界中の需要不足を解消できない状況が発生している。これでは,GVCを維持して行くことは難しいであろう。しかしながら,GVCは世界中の企業が効率的な生産活動を維持して行くための非常に有力な手段である。今回の件で明らかになったことを教訓に,世界規模の生産活動についてさらに進化して行く必要があると考えている。
上記以外の例として,皆さんは2022年に入って,さまざまな商品で値上げが生じていることもよくご存じのことと思う。決して少なくない種類の食料品で値上げが発表され,また電気料金も継続的に値上げされていることで国内の生産コストも上昇している。これらの状況からも判る通り,現在の経済状況は見通しの明るいものとは言えないであろう。さらに,2月末に始まったウクライナとロシアの紛争もこれから世界経済に悪い影響をもたらすことになるであろう(ウクライナ,ロシアともに世界有数の小麦の生産地である)。あらためて,国際貿易の重要性について痛感させられる毎日が続いている。