教員コラム 経済学専攻
オーストラリアの思い出―豊かな自然と前向き思考の人々 (経済学 岸 智子 教授)
2021年11月18日
オーストラリアの思い出―豊かな自然と前向き思考の人々
私は21世紀の最初の年に本学に着任し、本年度で勤続21年目になります。この20年あまりの出来事の中で、最も印象に残っているのは、2004-05年にオーストラリア、ゴールドコーストの大学で、ビジネス研究科の客員研究員になった時のことです。
オーストラリアに着いたばかりの頃は、紺碧の空とエメラルド色の海、夕刻には金色に輝く砂浜、大学構内を飛び回る、rainbow lorikeetという五色のインコなどさまざまな鳥たちに見とれていました。亜熱帯で、また自然保護が行き届いていますので、学内でも街中でも多くの鳥や動物と出会うことができました。恵まれた環境と陽気で屈託のない大学の教職員さんに囲まれて、無我夢中で数カ月を過ごしました。ですが、半年ほど経つと、この国のいろいろな姿が見えてきました。
忘れられない出来事が二つあります。その一つは、ビジネス研究科が環境学研究科、情報科学研究科と合併することになり、教職員のリストラが行われたことです。学内では、翌年から訪問教授になる先生や、他大学に転職することになった先生についての噂話が飛び交いました。また、事務職員の半数近くは解雇予告の通知を受け取ったと聞きました。この国の雇用形態には有期雇用と無期雇用とがあり、その各々が週35時間以上就業のフルタイム雇用と週35時間未満就業のパートタイム雇用とに分かれていますが、この時、無期雇用でフルタイムでも解雇通知を受けた職員がいて、雇用保障があまり強くない実態を垣間見たと思いました。
退職される教職員のお別れパーティーは、意外にも和やかな雰囲気に包まれていました。ある職員さんは「私、この大学に来る前には、キャンベラの映画館で切符の販売をしていたの。だから、今度もまた、違う仕事が見つかるかもしれない」と言っていました。また別の職員さんは「これを機会に、主人と国内一周旅行をする予定なの。内陸の砂漠地帯に行くのを楽しみにしているわ」と言っていました。
もう一つ忘れられないのは、経営学のL先生のお宅に招待された日のことです。大学からおよそ10キロ離れた山中のお宅に車でご案内いただいたのですが、近づくと開けた草地に10軒ほどの瀟洒な家が見えてきました。その中でもひときわ高いところにあったのが彼女の家でした。到着すると、裏山から彼女のご主人とともにカンガルーが飛び出してきました。見渡すと、草地のあちらこちらでカンガルーが跳ねたり、草を食べたり、寝そべったりしていました。川のせせらぎや、人間の笑い声のような、ワライカワセミの鳴き声も聞こえます。広々とした家庭菜園では大きなカボチャやスイカ、ニンジン、スイートポテトなどの収穫が始まっていました。「私もこういう生活をしたい」と言うと、彼女はちょっと黙って、「実は・・・」と話してくれました。ご主人はもう長く失業していたそうです。この国では奥様だけが勤めに出ているという世帯も珍しくないということでした。
その後も何度かオーストラリアに行く機会に恵まれ、そのたびに新たな出会いと発見がありました。現在、この国は新型コロナウイルスの感染者ゼロをめざすため、国境を閉ざしています。早くこのパンデミックが終息し、あの豊かな自然、そして試練を明るく乗り越えていく人々と再会できますよう、願っています。