教員コラム 経済学専攻
経済学専攻 稲垣 一之 准教授
2021年02月16日
ロボット資本の台頭
財やサービスを生産するために投入される要素は、生産要素と呼ばれます。代表的な生産要素は労働と資本であり、資本には建物や機械が含まれます。例えば、教育サービスを生産するためには、教員という労働者に加えて、その教員が講義をするための建物や機械設備が必要になります。
近年の研究によって、資本に対する技術革新が、労働者の雇用にマイナスの影響を与える可能性が指摘されました。その原因は、ロボットの台頭です。AI(人工知能)などの発展によって資本に含まれる機械の生産能力が向上し、機械による自動化のレベルが飛躍的に高まりました。その結果、人間が行ってきた従来の業務の一部がロボットに代替され、労働者の雇用が機械に奪われる場合があります。アメリカを対象とした研究では、ロボットによる自動化によって中スキル(例:製造、組立)の雇用は減少し、労働者は高スキル(例:管理職、専門職)か低スキル(例:単純作業)のどちらかに偏る傾向が高まったことが指摘されています。これは、労働市場の二極化と言われています。
日本でも産業用ロボットの普及は拡大していますが、雇用に何らかの影響を与えてきたのでしょうか?下の図は、1994年から2015年における日本の自動車製造業を対象にして、従業者数とロボット配備台数の関係を描写しています。傾向として、より多くのロボットが配備されるほど、従業者数が減少していることが分かります。そのため、アメリカと同様の現象が日本でも生じているのかもしれません。
ここで、私個人の研究に話を移したいと思います。私の専門は国際金融論で、特に国際的な資金の貸借(国際資本移動)を研究しています。上述した内容は、所得格差や労働市場の分野で積極的に議論されており、機械による自動化が労働者の賃金や雇用に与える効果は徐々に解明されてきました。しかしながら、この議論を国際資本移動に発展させた研究は、私が知る限り皆無です。ロボットが資本に含まれるなら、ロボット資本の発展は資本収益率に影響を与えて、国際的な資金移動も変化します。場合によっては、外国から流入した資金が自国におけるロボットの普及を促進するかもしれません。このような仮説を理論と実証の両面から検証して、第4次産業革命が経済に与える影響を国際的な視点から明らかにしたいと考えています。
図.日本の自動車製造業における雇用とロボットの関係
縦軸:従業者数(出所:経済産業研究所JIPデータベース2018)
横軸:ロボット台数(出所:International Federation of Robotics, World Robotics 2020)
直線:回帰直線(著者による計算)