教員コラム 経済学専攻
経済学専攻 上田薫 教授
2019年08月01日
集団間の競合の理論
私の研究の中心分野となっているのは、集団コンテストの理論と呼ばれるものです。コンテスト理論は利権や権限の獲得を目指す競合過程を分析するもので、企業内昇進、オリンピックの開催権、許認可や補助金の獲得競争から武力紛争まで、広範な問題を考察する際の理論的基礎になっています。そうした競合の多くは集団を単位とした形で発生しますが、集団コンテスト理論はこの特徴を明示的に考慮した分析を行おうとするのです。
集団が単位となる競合では、個人間の競合とは異なる種類の問題が生まれます。それは同じ集団の構成員間の利害関係です。彼らは各々が自分たちの集団の利権拡張の恩恵を受けることができるのですが、他の構成員が集団全体のために頑張ってくれるなら、自分はサボっていても利益だけは手に入ります。お互いに仲間の努力に「タダ乗り」しようとする誘因が発生することで、集団全体のパフォーマンスが低下するという問題が発生するのです。この問題をうまく解決できる集団ほど、集団コンテストに構成員の力を結集できます。集団コンテストで勝利するためには、他集団との争いのための直接的努力ばかりでなく、集団内の利害関係の調整の努力も必要になるわけです。
集団コンテスト理論の重要な課題の一つは、競合において有利になるのはどのような特徴を持つ集団なのかを明らかにすることです。この分野の古典的研究であるマンサー・オルソンの『集合行為論』が、構成員の多い集団の方が不利になる可能性を指摘したことは、貿易政策や社会運動などに関する議論に大きな影響を与えました。私の研究成果の一つは、こうした規模の大きさの有利不利が、争われている利権の集団内での共同利用の程度に影響される点を明らかにしたことです。別の研究では、得られる利権の集団内での分布が不平等であることが集団間の争いにおいて有利になるための条件を明らかにしています。最近の研究では、構成員に対し集団に貢献する個別的インセンティブを与える制度を導入する場合について考察し、その場合には利権の集団内分布の不平等が障害となる可能性があることを指摘しました。集団コンテスト理論には、他にもまだ取り組むべき問題は多く、今後も研究を深めていきたい興味深い分野だと考えています。