教員コラム 経済学専攻
経済学専攻 岸智子 教授
2019年06月17日
「未来志向の雇用政策―非正規労働改革―」
日本では、1980年代からいわゆる非正規労働者が増加を続け、2019年現在、雇用されて働く人の40%近くを占めています。このような現状については、「貧困や所得格差の原因になっている」という否定的な意見が聞かれます。
しかし、非正規労働者の増大は、学生や既婚女性、高齢者など、いろいろな人たちが労働市場に参加できるようになったことの現れでもあります。非正規労働者は多様で、一時的に就業している人や、家族のより良い生活のために就業している人も含まれます。ですから、非正規労働を一括りに否定的に見ることは適切ではありません。
現在、日本だけではなく、世界の多くの国々でパートタイム労働者の割合が増大しています。国際競争の激化で、企業が人件費の削減や雇用調整のしやすさを考えてパートタイム労働者を活用しているのです。また、技術進歩の影響で、短い時間でできる仕事も多くなっています。
ところが、諸外国でのパートタイム労働の位置づけは、日本の非正規雇用のそれとは少し違っています。多くの国で、パートタイム労働とは「週35時間未満(または30時間未満)の労働」であり、仕事の内容がフルタイムと違うという意味ではありません。パートタイム・フルタイムの時間当たり賃金の格差は一般的に日本より小さく、パートタイムの時間当たり賃金がフルタイムのそれを超えている国もあります。また、諸外国ではパートタイムからフルタイム雇用への転換率も高く、専門学校・大学で学ぶことでフルタイム雇用への転換が促されている傾向も見られます。さらに、パートタイム労働者の年収が一定額を超えると、税制・社会保険の面で不利になるということは、諸外国ではほとんどありません。
非正規労働の問題を解決するためは、諸外国の例を参考にしつつ、きめ細かな制度改革を行っていかなければならないと考えます。賃金などの労働条件を改善すること、正規の就業への道を開くこと、社会保障制度を改革することなどが今後取り組むべき課題ではないでしょうか。