教員コラム 経済学専攻
経済学専攻 寳多康弘 教授
2019年05月01日
国際貿易と環境問題
国際貿易(貿易政策)と環境(政策)は双方向に関連しており、両者の相互作用を考えることが重要です。国際貿易が国の生産パターンの変化等を通じてその国の環境に与える影響と、逆に環境が比較優位構造の変化等を通じて国際貿易に与える影響とがあるからです。
貿易が自由化されると、安価な輸入品が入ってくることで国内生産は減少しますが、自国の輸出品の生産は増加します。この生産パターンの変化によって、生産段階で汚染を多く発生する財(汚染財)の生産が増えて汚染財を輸出するのか、それとも生産で汚染をほとんど発生しない財(クリーン財)の生産が増えてクリーン財を輸出するのか、ということは、その国の環境水準に決定的な影響を与えます。汚染財の輸出国になる場合、輸出が伸びて利益は出ますが、国内の環境規制が適切に行われていないと、環境への負荷が大きすぎて多大な環境損失をもたらし、貿易の自由化は望ましくないかもしれません。適切な環境規制が行われてこそ、貿易自由化の恩恵を受けることができるのです。また、貿易自由化は外国のクリーンな生産技術を獲得するために役立ちます。
環境から貿易への影響もあります。典型例として、環境を保護して綺麗なビーチがあると外国からの観光客が多く来ますが、環境規制をせずビーチが汚染されると、観光客は大幅に減少してしまい、観光収入を失います。外国人観光客から観光収入を得られるかどうかは、環境規制にかかっているのです。
これらの相互関連を分析するためには、精緻な経済モデルが有効です。各経済主体の行動を正確にモデル化することで、影響を高い精度で明らかにすることができます。