教員コラム 経済学専攻
経済学専攻 林 尚志 教授
2018年11月01日
「直接投資と途上国側の誘致政策」
経済学専攻では、「開発経済学」、および「日本・アジア経済関係論」の授業を担当していますが、以下ではこれら科目と関連し、「先進国から途上国への直接投資」、および「途上国側の投資誘致政策」というテーマについて少しお話をさせて頂きます。
経済活動のグローバル化とともに、近年、急速に拡大しつつある「国際的な投資活動」は、大きく分けると、(1)海外進出先で事業経営を行い、直接的な経営支配を目的として行う「直接投資」、(2)資金の提供や資産価値の上昇から得られる収益を主な目的として行う「証券・その他投資」の2種類に分類されます。
第二次大戦後、政治的な独立を果たした途上国は、経済発展への取り組みを本格化させる中で両者の導入を進めてきたのですが、"後者"(証券・その他投資)と比べると、"前者"(直接投資)の場合、単に「途上国で不足する"資金"を導入する」のみならず、これらを活かす技術・知識・情報、さらには優れた人材や販売ネットワークなど、「"あらゆる経営資源"を一体化して導入する」ことが可能となることから、近年、多くの途上国が直接投資の積極的な誘致を進めてきました。すなわち、先進国からの進出企業が円滑に生産や雇用を拡大できるよう(エネルギー・通信等)各種のインフラを備えた工業団地や経済特区を整備したり、彼らが十分な収益機会を確保できるよう税制上の優遇措置を講じたりするなど、途上国政府側がかなりの政策コストを負担しつつ、投資環境の整備に努めてきたのです。
ただしその一方、第二次世界大戦に至るまでは大半の途上国が欧米列強等による植民地支配の"苦難の歴史"を経験する中、高い技術力や強大な資本力を備えた外資系企業による"経済支配"に対する警戒心も根強く、上述のような直接投資の誘致政策に関わる種々の問題点も、繰り返し指摘されてきました。たとえば、先進国企業の受け入れに多大な誘致コストを支払う一方、仮に彼らが途上国で稼いだ利潤の大半を本国に送金してしまうのであれば、結局途上国は彼らに搾取され、自国民の厚生が損なわれてしまうのではないか。また、外資の導入が単に"経済的な飛び地"を形成するのみで、現地の企業の発展や現地人材の育成につながらないのであれば、外資の進出は、結果的に途上国経済の自立の芽を摘んでしまうことになるのではないか。さらに、進出企業が仮に生産や雇用を拡大しても、現地で人手不足となって賃金水準が高まり始めると、その国はコスト競争力を失って進出企業が撤退してしまうのではないか・・・ 等々の理由から、外資系企業の誘致に反対したり、彼らを規制したりする動きもしばしば見られたのです。
このように、「先進国からの直接投資」に関しては、これまで"功罪両面"から数多くの議論が重ねられ、特に「途上国側の誘致政策」については、「単に誘致をすればよい」という訳ではなさそうに思われます。では一体、途上国政府は、なぜ&どのような点に注目する必要があるのでしょうか。また従来、開発経済学では、この問題に関してどのような研究がなされてきたのでしょうか。これらの論点についてはまた機会を改め、東アジアと日本・日本企業との関わりにも注目しつつ紹介させて頂けたらと思います。