教員コラム 総合政策学専攻
総合政策学専攻 梁 暁虹 教授
2020年08月28日
漢字文化圏内に於ける東アジア文明史
私の専門分野は、漢語史、即ち中国語の歴史の研究であり、その対象は後漢(25-220)以来漢訳された仏典である。日本にきて以来、主に日本の仏教に関する資料に基づいて漢語史を研究してきた。近年は、特に日本の仏経音義を資料にして漢字研究に没頭してきた。その理由として、日本は、漢字文化圏の重要成員として漢字研究の資料が豊富に保存されてきたことが挙げられよう。
漢字文化圏は、中国・日本、また以前は、ベトナムや朝鮮を含んだ東アジア一帯から成り、古代より近・現代に至る長い歴史がある。もともと独自の言語文化をもつ日本・ベトナム・朝鮮の諸国は、初期の段階では漢文をそのまま使用し、中華文明の吸収に努めたが、その後、漢字に様々な工夫を加え、各自の文字文化を発展させてきた。また、文化交流を通し、相互の文化発展に寄与してきた。そのような文化背景の下に、漢字文化圏はそれぞれ異なった発展してきた形跡を残し、今日多種多様な容貌を表している。
仏教文化圏は、地域的に考えると漢字文化圏より広いと言えるが、漢伝仏教の範囲は、漢字文化圏とほぼ合致する。それは仏典が漢字で書かれていること、また仏教徒は漢字文化圏内にて日々の生活をしていたからである。仏教は中国漢代にインドや西域よりもたらされ、梵語仏典が漸次漢訳され、後世それらが膨大な漢文大蔵経に集大成されるように至った。仏教は唐代にその全盛期を迎え、東アジアでは日本及び朝鮮、東南アジアではベトナムへと渡って、大乗仏教の一特色たる漢伝仏教文化圏を形成するようになった。
漢字文化圏は、「儒教文化圈」とも言え、それが暗示するところの文化は互いに近似している。もともと中国で独自に発案され発展してきた漢字は、政治、経済、生活、その他さまざまな局面で利用されてきた。時代が下がるに従って、話し言葉とは異なった書き言葉である「漢文」(古典)が発展したため、それを習得することは大変重要なことであった。一方、東アジア・南アジアにまたがる諸国も自国の文化が発展するに従い、漢字をベースにした文化を吸収することは国家形成にとって急務であった。その文化的要素の特徴は、人倫・道徳観念を基にした家庭中心的な儒家社会を構築し、知識を重んじ、敬天、祖先崇拝の思想を広めることであった。
このように、漢伝仏教、仁、義、禮、智、信を中心として儒教の価値観が漢字文化圏において如何に応用・適用されてきたかを探求することをこの社会科学研究科Webページにて特筆したい。