学科イベント ドイツ語劇
南山大学ドイツ語劇に寄せて
2019年07月04日
ドイツからはるか離れた東の果ての国の学生が、それも演劇の素人がドイツ語で演劇を上演する。南山大学ドイツ語劇を観たことのない方には、にわかに想像もつかないことでしょう。あるいは、せいぜい、ちょっとした童話のママゴト程度だろうと想像する人もあるかもしれません。
しかし学部生のときに私が初めて見た南山のドイツ語劇は、そういった想像をはるかに超えるものでした。ドイツ語劇では、例えばF. シラーの『ヴィルヘルム・テル』などに代表されるドイツ文学史に燦然と輝く作品の徹底的な解釈に基づいて、学生が実際に登場人物を演じることでその演劇作品の理解を試みています。換言すれば、かつての講義名が示すように語劇はまさに「ドイツ演劇研究」の試みであります。そこでは、教員も上級生も新入生も卒業生も、皆一緒になって汗をかいて練習をしています。誰が欠けても劇は成立しません。同級生だけでなく、縦と横が緊密に絡み合って、はじめて一人ひとりの「糸」が語劇の幕を織りなすのです。これこそが、南山大学ドイツ語劇が大学創立以来60年以上も上演されてきた所以でしょう。
今日、外国語でのコミュニケーション能力の向上が叫ばれ、教室では色とりどりの会話が花を咲かせます。でも、少し考えてみてください。南山で上演されるドイツ語劇の演目は、どれも教科書の程度をはるかに超えた重厚な文学作品であり、身に着けるドイツ語の力は相当のものです。南山大学のドイツ語劇はそういったいわゆる教養を踏まえつつ、また教員と学生の団結を通じて国際化社会という「舞台」で「七つの幕」を演じ切る役者を形成する場でもあるのです。皆様のご来場を心よりお待ちしております。
2016年上演、F. デュレンマット『貴婦人故郷に帰る』
貴婦人クレーレ・ツァハナシアン役
野添 聡
※写真はスイス、ドイツで公演したF・シラーの「ヴィルヘルム・テル」より